法然聖人とその門弟の教学
第23回 「『往生要集』の助念方法」
武蔵野大学通信教育部准教授 前田 壽雄
法然聖人の『選択本願念仏集』には、念仏と諸行との関係について、念仏を助けるために諸行を説くという「助正」の義を示しています。助正には、さらに二つの意味があるとして、同類の助業と異類の助業とに分類しています。同類の助業とは、五正行の中の称名以外の助業(読誦・観察・礼拝・讃歎供養)をいい、異類の助業とは、それ以外の助業をいいます。それ以外の助業とは、法然聖人は具体的に『無量寿経』三輩段に説かれている諸行によって明らかにしています。
法然聖人は、三輩段の中輩には「寺院を建て、仏像を造り、天蓋をかけ、灯明を献じ、散華や焼香をする」などの諸行が説かれていますが、これらの諸行を異類の助業であると述べています。そしてこれにつづいて、
その旨『往生要集』に見えたり。いはく助念方法のなかの方処供具等これなり。
(『選択本願念仏集』三輩章)
と解説を施しています。
『往生要集』とは、源信和尚が仏教のさまざまな経論釈の中から往生極楽に関する要文を集めて、阿弥陀仏の極楽浄土に往生すべきことを勧めた書物です。全体は十章で構成されており、「助念方法」はその第五章(大文第五)に説かれています。助念方法とは、念仏を助ける方法という意味です。
源信和尚はこの助念方法を、次のように規定しています。
助念方法といふは、一目の羅は鳥を得ることあたはず、万術をもつて観念を助けて、往生の大事を成ず。(『往生要集』巻中大文第五)
つまり、助念方法とは、網目が一つしかない網では、鳥を捕らえることができないように、あらゆる方法によって、仏を心に思い浮かべ観る行(観念)を助けて、極楽往生の一大事を成就させるということです。この助念方法には、『往生要集』に七つの方法が示されています。七つの方法とは、方処供具、修行相貌、対治懈怠、止悪修善、懺悔衆罪、対治魔事、総結行要をいいます。『選択本願念仏集』では、「方処供具等これなり」とまとめられています。
方処供具とは、念仏を修する際の場所や供物、道具をいいます。その内容は『往生要集』に次のように示されています。
まず心も身体も共に浄め、閑静な場所を選んで、できる限りの香や花などの供物を用意することです。花や香などを欠くようなことがあるならば、ただひたすら仏の功徳とその不思議な力を念じることです。仏像に礼拝する場合は、灯明を供えなければなりません。はるか西方極楽浄土を観念するならば、闇室を用いてもよいです。
花や香を供える時には、『観仏三昧経』にある供養の文を唱えましょう。この文を唱えることによって得られる福徳は無量無辺であり、煩悩はおのずから減少して、六波羅蜜(布施・持戒・忍辱・精進・禅定・智慧の六度)の行はおのずから成就するのです。
念珠を用いる場合は、極楽浄土の往生を願うならば、むくろじの実の念珠を用い、多くの功徳を望むならば、菩提樹の実あるいは水晶、または蓮の実などの念珠を用いるのがよいです。
このように源信和尚は、念仏を助ける方法としてその実践する場所や供物、道具を具体的に述べ、念仏を修しやすい環境を整えることを勧めているのです。この念仏とは、『往生要集』では観念を指していますが、法然聖人は称名として理解されています。